人民元切り上げ - 今後の日中関係 [意見]
7月21日(木)、中国は人民元の切り上げを発表した。人民銀行による発表は以下のとおり。
まずはUS$=8.11yuan へ2%の切り上げ、そして日々上下0.3%の変動幅で管理する”managed floating exchange rate regime "へと制度変更を行った。
予想されていた8月ではなく、この時期に切り上げたことで、中国当局は他国からのプレッシャーではなく、中国独自の政策判断で切り上げを行ったという体面をたもった。
2%という切り上げ幅は、もちろん十分なレベルではない。 まずはジャブのようなものか。木曜日に切り上げ発表したのも、金曜日に相場がどの様に受け止めるかを見届けた上で次なる切り上げを考えるのだろう。
2%をどの様に考えるかと言えば、これによって貿易摩擦が解消されるほどの実質的、直接的な効果はないだろう。米国企業はもともと人民元は40%切り上げられるべきだと主張してきた。米国政府は、この措置を歓迎しつつも今後の推移を見守る姿勢だ。
今回の措置により、理論的には10日間(2週間)で8.11yuanから3%切上がることもあるのだが、中国がそれを許すとは考えられない。これまでの中国の圧倒的な輸出攻勢は、人為的な為替レート設定にあったことは明白で、WTO加盟を果たした国としては恥ずべき事態を続けてきたわけだが、ここで貿易面での優位性を喪失することは中国経済の崩壊にも繋がりかねないリスクである。グリーンスパンが言うように、"This is certainly a good first step. ... I think it is a good start."ではあるが、問題は今後である。
最近、日中関係は政冷経熱とよく言われる。我が国の経済界からは隣国に配慮して総理は靖国参拝を止めるべきとの声まで聞こえる。しかし、中国で経済活動を行っている企業は中国のカントリーリスクについてしっかりと認識してほしい。これが中国なんだと。中国に資本主義はあっても民主主義は存在しない。日中は隣国として付き合ってゆかねばならないが、価値観を共有することはありえない。お互いにそういうものだと割り切ったうえで、付き合ってゆかねばならないのだろう。その意味で今年に入ってからの中国国内での反日の動き、そして今回の人民元切上げは中国との付き合い方、特に中国での経済活動について再考する良い機会になったのではないか。現体制を維持しようとする北京政府の国内政策と、一方で国際社会からの批判への対応の苦悩が表れている。中国を単に日本に対する安価な生産、供給拠点と考えて進出した企業は過大なリスクを抱えていることに直面している。これから中国へ進出を検討していた企業は中国の潜在的な巨大市場を目指すのか、それともより安全な環境を考え他のアジア諸国を新たな投資先と考えるだろう。
先日行われた勉強会で王毅駐日大使が中国とのFTAを推進してほしいとのスピーチを行ったことに対し、日本側の企業、官庁が大変冷ややかに対応していた、と伺った。中国とのFTAは我が国に何のメリットももたらさないと言うことを既に見切っているということか。 東アジア共同体構想にしても中国主導によるASEAN+3を枠組みとした構築では意味を持たない。むしろ我が国にとってより重視すべきは、大の親日国であるインドとの連携強化であろう。インドはやがて中国と比肩、凌駕する経済規模を持つことになるのは間違いない。東アジアの経済連携はインド抜きには考えることはできない。
貿易相手国としてはトップを中国に譲ったものの、我が国にとって最大のパートナーはやはりアメリカであるということは忘れてはならない。アメリカ抜きに日中関係、あるいは東アジア連携を考えることは出来ないからだ。来週開催される6カ国協議においても拉致問題についての我が国の立場に対し、アメリカの理解を得て、歩調を合わせて北朝鮮に強く対応してゆかねばならない。
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